2019年8月から9月の間に投稿。全11曲。
4つの東方曲と1つの西方曲、6つのオリジナル曲とショートストーリーによるシリーズ。
No. | タイトル | 出典 | 日付 |
1 |
妖怪桜の下で | 2019年オリジナル | 2019/09/01 |
2 | Happiness maple | 2019年オリジナル | 2019/09/02 |
3 | Incomplete Plot | 東方幻想郷 | 2019/09/02 |
4 | ブクレシュティの人形師 |
東方妖々夢 |
2019/09/02 |
5 | 訪れぬ五月晴れ | 2019年オリジナル | 2019/09/02 |
6 | ポイズンボディ ~ Forsaken Doll | 東方花映塚 | 2019/09/03 |
7 | エクステンドアッシュ |
東方永夜抄 |
2019/09/03 |
8 | 鏡の国の魔法使い |
2019年オリジナル |
2019/09/03 |
9 | 風そよぐ花の舞台 |
2019年オリジナル |
2019/09/04 |
10 | エニグマティクドール ~ God Knows | 稀翁玉 | 2019/09/04 |
11 | 絵本のとびら閉じて | 2019年オリジナル | 2019/09/05 |
最後の蝋燭が消えた。
光も音も、あらゆる生物の気配も消え去ったこの場所は、四季の花で埋め尽くされた。
全てをやり遂げた彼女の前に、笑みを浮かべる一人の妖怪。
新たな風吹く舞台の上で、楽園を作った少女は、外への扉を押し開ける。
「風が気持ちいいわね」
「ええ。とてもいい風だわ。あの頃を思い出すような……」
「いつの話かしら」
「まだ好きに劇をやってた頃ね」
「それっていつもじゃないの?」
「違うわよ。今よりもっと、魔法もかけ放題、夢も持ち放題だった頃よ」
「じゃあ、私は関係ないわね」
「そんなことないわ。あなたも最後のほうだけ劇に出てたわよ」
「ああ、その頃ね。幻想的で美しい舞台だったわ」
「嬉しいわ。まあ私としては不満足だったのだけど」
「そうなの?」
「そうよ、ちょっとだけ。でも、本当に楽しかったのは確かね」
「そういえばあなた、途中舞台に上がっていたわよね。かわいいリボンつけたりして」
「いいじゃない別に。あの時は最後のつもりだったんだもの。派手にやらなきゃ」
「そういうことだったの。私もあれで本当に終わりだと思っていたわ」
「そうよねえ……。だけど、私の夜明けはまだだった」
「ところで、あの後自分似の人形を作ってたのは、暇を持て余していたから?」
「そうかもしれないわ。勿論破棄したけど」
「勿体ない。いい出来だったのに」
「だから、もうちょっと個性的なのを代わりに作ったのよ」
「私、本当はあの人形たちを劇から解放しようと思ってたの。
正直あの時の私は、夢中ですっかりおかしくなってたわ」
「解放って、あの鈴蘭畑の子みたいに?」
「そうじゃなくて……いや、そうかも。人形たちと永遠を共にしようと思ってたわ」
「でも私の劇は終わらなかった。続きを期待するかのように拍手は続いた。
それこそ永遠に続くんじゃないかって感じだったわ」
「あれは永かったわよね」
「私は同じ劇を何度も繰り返して、折角用意していた結末を無かったことにした」
「人形たちを解放するって考えは間違ってたのよ。視野が狭かったのは私」
「どういうことかしら」
「もう、あの子たちは私だけのものではなかったってこと」
「だから新しい演目を考えて、それを最後に人形たちを手放すことにしたの。
本当のフィナーレに相応しく、舞台にも花を添えた」
「あの時も風が吹いていたわね……」
「そうね。あれは今までとは全く違う風だったわ」
「目を覆うような花吹雪の中で、人形たちは舞ったわ」
「華やかだったわねえ。軽快な音楽とか流れたりして」
「そうね……でも少し、苦しかった」
「そして、ようやくあなたも夜明けを迎えたというわけね」
「ええ」
「見送りに来てくれてありがとう、本物の妖怪さん」
そう言うと彼女は、大笑いしながら扉の外へ向かっていった。
舞台は生まれ変わった。
人形たちは、舞台を買い取った誰かの手で再び動き始めた。
幾つもの風が吹き込む部屋で、
人々は舞い踊る人形たちを写真に収め、熱狂している。
しかし、彼女が振り返る事は二度と無かった。